空を飛べない天才たち 第五回

企画元 id:gotanda6 さん(http://d.hatena.ne.jp/gotanda6/20040707#yokoku


アイザック・アシモフ
Isaac Asimov

非常に著名な多作の作家であり、その著作は500冊以上を数える。彼の扱うテーマは科学、言語、歴史、聖書等々非常に多岐にわたるが、特にSFおよび一般向け科学解説書、また推理小説作家として非常によく知られている。長年にわたり、メンサの会員でもあった。

アシモフについて語るべき事は多い。
徹底的な人道主義者かつ合理主義者であったアシモフは、不合理な現象や根拠のない思想に対しては断固とした態度を貫いた。これはアシモフの経歴を考えれば当然の事で、まさに科学信仰の教義とも言える事だと思う。しかしながらこの教義の中に「飛行機」は含まれていなかったらしい。


アシモフの飛行機嫌いは有名で、某日本企業に講演を依頼された時も「そこは自転車で行けるのか?」と真顔で聞いたという逸話がある。本気で自転車を使おうと思っていたかは謎だが、このアシモフの性格は小説中にも投影されて出てくる。「歌う鐘(The Singing Bell)ISBN:4150107920」他に登場する地球外環境学者ウェンデル・アースの設定はアシモフの飛行機嫌い(と言うより空間恐怖?閉所愛好?)をそのまま反映させたキャラクターである。
また、「鋼鉄都市(The Caves of Steel)ISBN:4150103364」シリーズの主人公イライジャ・ベイリにもこれは受け継がれています。ただ、ウェンデル・アースと扱いが違うのは、ベイリの開放空間恐怖症はこのシリーズ中の鍵の一つとなること。作中の描写はともかく、物語のプロットの一部として書かれている為、純粋な作者投影であるウェンデル・アースとは違う。


一般的に乗り物の中というのは密閉空間と認識されやすい筈なのに、狭くて閉ざされた空間を好むアシモフにとって、飛行機はその容器としての役目を果たせなかったようである。
しかし、自分自身(容器ごと)が高度数千メートルを飛行していて、ほんの十数センチ向こうは蒼空が広がる感覚というのは想像してみると結構怖い物があるかもしれない。そういう意味ではワンダーウーマンの透明な飛行機など、人の乗るものでは無いとも思う。まあ、普通の人はそんな事自体考えるのが無駄というか、通常とは違う視界を手に入れる喜びの方が大きいはず。(馬鹿と煙は・・・などと言うツッコミはしないでください。)


戦時中に軍の命令でやむなく乗ったことがある以外に、彼はその生涯で飛行機に乗ることは無かったという。しかし、その体験(してない体験?)をそのまま使う事で、数ある自作のキャラの中でも立ったキャラ設定となっているのが興味深い。
やはり小説家としての想像力や認識力が自分自身の置かれた立場・状態をより鮮明に感じさせてしまうのであろうか。アシモフにとっての想像の中の認識は、既に現実のものとして実感できてしまうものだったのかもしれない。
あぁ、私にはそこまでの想像力が無くて幸いだったなぁ(笑)