夜空は何故暗いのか -その4-

お花畑で・・・



 その1はこちら その2はこちら その3はこちら


今日こそは、オルバースのパラドックスを崩していつもの日記に戻りたいと思う。
では早速。


前回の中でスペクトルに触れたが、その際にサラッと流した赤方偏移をもう少し考えてみたい。
天文学者がスペクトルによって様々な事を計れるのは、そのエネルギーの偏移を素にしている。紫から赤に色が分布しているのにもちゃんと意味がある。このスペクトルの紫は短波長を表し、赤は長波長を表す。ここでは単純に短波長の方が、長波長よりもエネルギーが大きいと考えて構わない。日焼け(紫外線)の方がこたつ(赤外線)よりも焼けるという所か(笑)


で、スペクトルに偏移が起きる事で対象が近づくか遠ざかるかは、この波長が短くなるか長くなるかを調べる事でわかる。近づいてくるモノからの輻射エネルギーは短い波長となり、遠ざかるモノは長い波長となる。分かり易い例では、目の前を救急車が通り過ぎる時のサイレンの音を思い浮かべれば良い。
前回の話の中で、「スペクトルを計測した結果、きわめて近くにある1、2個の銀河を除いた全部の銀河系が我々から遠ざかっている事が解った。」と書いたが、これは計測したスペクトルが赤方偏移を起こしていたという事だ。そして、「遠くの銀河系ほど早い速度で離れていっている」と、いうのはより大きな赤方偏移を起こしているということだ。


さあ、手材料が揃った。これでオルバースのパラドックスに引導が渡せる。


何度も言うが、赤方偏移を起こすという事は、エネルギーの低い方へ偏移するという事だ。我々に対して静止している銀河系に比べると、赤方偏移している(遠ざかりつつある)銀河系からは、輻射エネルギーは少量しか届かない。そしてそのエネルギー量は遠ざかる速度に比例するのだから、光速度まで加速された銀河系からは、それがどんなに大きく輝いていても我々の所に輻射エネルギーはほとんど届かないのだ。
膨張する宇宙の中では外側にある皮ほど、その内側の皮よりも少ない輻射エネルギー(ここでは光)を放射してこない為、夜空を埋め尽くす星といった想像は出来なくなってしまう。


宇宙の膨張に伴う計測の限界点は、すなわちオルバースのパラドックスの消滅を意味していたのだった。
これにて我々は、有名な「膨張する宇宙論」によって、暗い夜空を再びその手に取り返す事に成功した。だが、当然の様に受け止められているこの「膨張する宇宙論」は一説にしか過ぎず、この先の事は空想するしかない。
このまま膨張し続けるのか、それともどこかでこの膨張は止まるのか?
膨張し続けるならば、我々のいる天の川銀河はいつの日かこの広い宇宙の中で独りぼっちとなり、夜空は真の暗闇となるであろう。また、膨張が止まるのならば、その時こそオルバースのパラドックスは息を吹き返し、闇の無い夜空は全ての生命活動を停止させるであろう。いや、それどころか宇宙が縮小する事を考えると、今度は紫方偏移で起こる高エネルギー輻射により、固体の星はほぼ消滅してしまうだろう。


これを踏まえたら、暗いのが嫌だなんて言ってはいけない
我々は夜空が暗い事に感謝しなければいけないのだから。